京都METROで行われた「ルポ風営法改正~踊れる国のつくりかた~」出版記念シンポジウムに参加してきました。改正された風営法にはどのような問題が残されているのでしょうか?
2月11日に京都の老舗クラブにして、風営法改正運動にも大きな役割を果たした京都METROで「ルポ風営法改正~踊れる国のつくりかた~」出版記念シンポジウムが行われました。
この書籍はLet’s Dance署名推進委員会による全国的な署名運動に始まり、現在も続くNOON訴訟、超党派の国会議員によるダンス文化推進議員連盟の成立から、アーティストやDJらのクラブとクラブカルチャーを守る会の勃興、そして2015年6月17日の改正風営法の成立までを取材した朝日新聞記者神庭亮介氏の著作によるもの。
風営法改正運動のキーマンとなったDJの沖野修也氏、国際刑法学者の高山佳奈子氏、Let’s DANCE法律家の会代表の斎藤貴弘氏、元NOON経営者でLet’s DANCE署名推進委員会の金光正年氏、NOON裁判弁護団長の西川研一氏らがパネリストとして登壇、同著作を通じて風営法改正運動について振り返り、今後の問題やヴィジョンについても話し合われました。
風営法改正運動やNOON訴訟については同著作に詳しいため、ここでは改正風営法の孕む問題点、そしてそれらの問題点を踏まえた上での対策やヴィジョンについてまとめていきます。
◆改正風営法の問題点
3年に及ぶ風営法改正運動の結果、ついに改正された風営法ですが、その改正内容は決して手放しで喜べるものではありません。
確かに改正によってこれまで完全禁止だった深夜帯の遊興営業が認められたこと、深夜帯以外では未成年も含めた「客を躍らせる営業」が解禁されたこと、ダンス教室が完全に風俗営業の枠外に出たことなど、プラスの面も少なくありません。
風俗営業でないというだけで企業からの協賛や後援を取りやすくなる、クラブとして店舗を借りやすくなるなどの心理的、社会的な影響も少なからずあると考えられます。
しかし、風営法から望み通りダンスの文字は消えたものの、さらに曖昧で広範なダンスをも含む「遊興」という考え方が導入されており、クラブなどは許可制で違反者には営業停止どころか懲役刑までが課される「特定遊興飲食店」という、ある意味風俗営業に準ずる扱いになっています。
◆「遊興」の高い恣意性
遊興という言葉の曖昧さと恣意性については改正前の国会質疑でも質問が集中しました。違反した場合は刑事罰が課されるにも関わらず、警察は「営業者の積極的な働きかけにより客に遊び興じさせる行為」という極めて広範で抽象的な基準を述べるばかり。個別具体的な事例についてその場で警察が恣意的に解釈し、運用できる余地が残されてしまいました。
このことは風営法改正前に、何が取り締まり対象のダンスであるかの基準すら曖昧なままにNOONを始めとする複数のクラブを「客にダンスをさせる営業をしていた」として摘発してきたことと同じ歴史を繰り返す可能性が残されたことを示しています。
◆地域規制、照度基準、面積要件
既存のクラブにとって極めて大きな問題となってくるのがこの地域規制です。風営法改正後の9月に警察庁はクラブなどの特定遊興飲食店を終夜営業できる地域の基準を定める政令案を公表しました。
それによると、クラブやライブハウス、スポーツバーなどの、深夜過ぎに客に遊興をさせる「特定遊興飲食店」の営業ができる地域は1平方キロメートルに300軒以上の店が集まる繁華街と、深夜に居住する人が少ない港湾地域・倉庫街などとされています。
もちろんこの基準はあくまで政令案であり、これを受けて全国の地方自治体が実際の政令を定めるわけですが、このとおりに政令が定まった場合、条件に当てはまる繁華街や港湾地域、倉庫街ではない立地の既存のクラブが特定遊興飲食店の許可を取れなくなり、廃業に追い込まれる可能性あるとして問題視されています。
地域規制と同様に問題になってくるのは面積要件。約21畳半に当たる33平米という広さが許可を取るのに必要となってきますが、これを満たしていない既存店舗がこれまで同様の営業を続けられなくなる可能性があります。
また、照度の測定についても、客席部分で10ルクス以上とされてきましたが、飲食用の客席の面積が客室の面積の1/5以下となる場合は、遊興をさせる部分も客席と同様に照度の測定場所となり、どちらかが10ルクス以下であればアウトということになります。
京都府警が行ったパブリックコメントではこれら3点に対する異論や意見が相次ぎましたが、警察は全て「国家公安委員会規則によって定められる事項であり条例で定めることはできない」と一蹴しています。
◆既存のクラブの営業許可
また、警察はこれらの規制による既存店の存続を危惧する声に対して「現在適法に営業されている店に対して、新たに規制を強化する改正ではありませんので、適法に営業されているのであれば、改正法が施行された後も同様の営業形態で営業していただけます」と判を押したように繰り返すのみ。
つまり法改正前はグレーゾーンに置かれており、今回の地域規制で定められたエリアの外に存在する既存のクラブに関しては営業の保証が一切されず、警察が改正風営法違反で摘発しようとすればいつでもできる状況に置かれることになります。
特定遊興飲食店の許可を取得できる限られたエリアの外にあるクラブにとっては、これまでと同様のグレーゾーンに置き去りにされるのみならず、改正前と違って2年以下の懲役、200万円以下の罰金という極めて重い刑事罰を課されるようになったという意味で、状況は改正前より悪化したと言う他ありません。
◆ではどうすればいいのか?
先に言ってしまえば、これといった決定打はありません。ただし必須なのは常にクラブに関わる人々がこの法律とそれに基づいた規制に関心を持ち続けることです。
例えば2015年8月5日に内閣府の規制改革会議、地域活性化ワーキング・グループによって行われた「警察庁、関係業界団体からのヒアリング『ダンスに係る風営法規制の見直し』」が参考になります。ここでは各委員や関係業界団体から警察庁に対して多角的なツッコミが入っており、警察庁はのらりくらりと逃げながらも「規制緩和であって規制強化ではない」「いきなり摘発するわけではない」と強調しています。
大切なのはこうした言質を積み重ね、警察が改正風営法を用いた恣意的な運用を行わないよう、ある意味「監視」し続けること。納得の行かない摘発があればしっかりと意見すること。地元の政治家にロビイングを行って都道府県警察に対して意見を伝えていくことも極めて重要です。
風営法改正運動はクラブシーンが所属する社会と関係を持ち、巻き込んでいくことで法改正にまで至ることができました。法改正が終わった後もそうした社会と関わりを保ち、これまで以上にオフィシャルな存在として動き続けていくという意識は決して忘れてはならないものです。
以前からBUZZAP!では法改正は新たなスタートラインに立つことに過ぎないと繰り返し強調してきましたが、社会的存在としてこれからも動き続けていく必要性が否応なく発生している以上、自分たちが遊び、踊る場所を守り、そして育てていくのは私達クラブシーンを愛する者の義務であると考えます。
◆これからのヴィジョン
改正風営法の元でクラブシーンはどう変化していくのか。パネリストの斎藤貴弘はクラブシーンを包摂するナイトカルチャーという枠組みを重要視します。内容は日経ビジネスに掲載されたインタビュー「『夜の市長』がナイトカルチャーを変える」「『夜』から東京の文化を発展させる」で詳しく解説されています。
海外からの旅行者に対するアピールを始め、これまで活用されなかった深夜帯という時間帯、そしてホテルや美術館などを用いた新たなビジネスチャンスの創出という経済的効果。そして昼間とは違ったアプローチでの表現活動やエンターテインメントが生まれるという文化的効果。さらにはクラブというインタラクティブで自由な可能性を持つ空間を通じての新たな繋がりやコミュニティを生み出すという社会的効果が生まれうるということ。
さらにはレストランやカフェなどでこれまでのクラブよりもゆっくりと音楽やエンターテインメントを楽しむことができるということで、ナイトカルチャーから一度離れた世代のカムバックを促すこともできるようになります。
ここからは筆者個人の意見になりますが、今の若い世代は今回の風営法改正運動に携わった人々が極めて重い価値を置く「朝までお酒を飲みながら暗いハコで踊る」といった遊び方すらひとつのオプションに過ぎなくなりつつあります。
BUZZAP!でもかつて取材したアニクラ系無料野外パーティの「Re:animation(リアニメーション)」は2015年11月に開催された第8回においてはクラウドファンディングで500万円以上を集めて中野区役所の敷地内で昼前の11時から夕方19時頃までのタイムテーブルで開催されています。
近隣住民と軋轢を生まないどころか開催地域の商店街や役所と緊密に繋がって信頼関係を確立しており、お酒を飲む人もいれば飲まずに楽しむ人もいる。そして夜に暗い場所ではなく、昼間に明るい空の下で踊る。
正直な話、風営法改正運動でクラブやクラブファン側の問題とされたポイントをことごとくクリアした上で、全く新しい方法で開催資金を調達し来場者たちに還元、地元にも迷惑をかけず、むしろ利益になるようなオーガナイズを法改正前から達成していたわけです。
クラブの高齢化問題が囁かれ、若者がクラブに来ないとも言われますが、一方で次の世代は上の世代ができなかったことを自分たちで考えてやってのけている。上の世代が今後のヴィジョンを語り合うのもよいですが、自分たちのこだわりの外側で着々と築かれつつある新しい文化にアンテナを張り、サポートしていくことは極めて重要でしょう。
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